2017/APR/18 「イブン バトゥータ」

タンジェは15年前に旅したときにアルヘシラスから往復した。そのときは時間に限りがあり、泊まらずにフェズへ向かった。この港町はフェズやマラケシュ、シャウエンのような観光客だらけの町ではなく、活気ある市場と生活感溢れるメディナ(旧市街)があり、それ以来滞在してみたいと思っていた。

昼前に町に着いて、デミトリーが勧めてくれた宿に行くと一杯と言われ、近くの安宿にチェックインした。メディナのグランモスクの裏通りには何軒も安宿が並んでいる。いかにもバックパッカーが多そうなエリアだったが、何故か宿には他に客がいなかった。屋上に上がると旧港にあるモスクとその先には地中海の向こうにスペインがうっすらと見える。明日、いよいよアフリカを出るのかーと何とも言えない気持ちになった。エジプト入国から実に17ヶ月が経っている。

まず明日の船のチケットを抑えることにした。ネットで買うと17ユーロと安かった。それからは町をブラブラ歩き、フルーツを買ったり、土産物を買ったりした。ノリ子さんの宿で見たティーグラスにはめるカバーを探していたが、なかなか見つけられなかった。そしてLas Chicasという店に行ってみろと言われ、その店を訪れてみた。お洒落な雑貨屋で、その辺の土産物屋には無い物ばかり売られていたが、値段も高かった。グラスのカバーは無かったが、ティーグラスは手作り感がありとても良かった。他にも店にあるものはとてもセンスがよく、日本でも問題なく使えるクオリティだ。

店のスタッフ達が話しかけてきて、どれくらいの旅行か訪ねられたので、アフリカにはもう17ヶ月もいて、エジプトからぐるっとアフリカ大陸を一周して、モロッコで最後だと答えると、目を丸くして驚いた。一人の子が「あなたはイブン バトゥータのようね」と言った。イブンバトゥータはベルベル人の巡礼冒険家ともいうべき、人生をメッカの巡礼と旅に捧げた人物で、30年をかけてアフリカ、中東、東ヨーロッパ、中央アジア、南アジア、東南アジア、中国を旅した、おそらく史上最も偉大な旅行家だ。「彼は確かトゥンブクトゥについてとても安全で規律の守られた町と書いてたね。でも、今は危なくてトゥンブクは行けないよ。行こうと思ってテロリスト対策でコーランの一章を覚えたくらいだからね」と言って、コーランのフレーズを披露すると、レジにいたオーナーらしき女性が、驚いて「これは旅の思い出に」と言って、さっき見てたティーグラスを2つ包んでくれた。コーランはテロリストに誘拐された時以外にも役にたつ。

モロッコを出る前にやらないといけないことがあった。それは、もう使わないであろうテントを処分することだ。ボツワナで25ドルで買った中国製のテントは100泊以上も使い何ヵ所か壊れてしまったが、モロッコなら何かに換えられるんじゃないかと甘い期待を抱いていた。まず欲しいものを物色してまわり、アンティークショップで真鍮製の昔のカレンダーに狙いを定めた。カレンダーといってもパラパラめぐるものではなく、板状の金属板に各月と日にちの穴が空いていて、そこに木の棒を差しておくという情緒あふれるものだ。

ジロジロ見ていると店の主人が出てきて、「それは200DHだ」と言うので黙っていると「いくらがいいんだ?」と聞いてきた。そこで「金はないがテントと交換してくれないか?」と聞くと主人は「テントはふたつも家にある」とアッサリ断わられた。

思ったより簡単にはいかないようだ。貰い手がいなければ重いので捨てることになるので、バブーシュ屋でバブーシュ一つにでも換えてもらおうと、昼間行った店に行ってみるとそこの兄ちゃんは、「取り合えず持ってきて見せてくれ」とかなりポジティブな返事だった。急いで宿からテントを持ってくると、店の兄ちゃんはいなく、隣の服屋のオヤジが待ってればそのうち帰ってくると教えてくれた。

オヤジは「何の用なんだ?」と聞くのでテントの話をすると「ジェラバはどうだ?」と言ってきた。ジェラバはモロッコの伝統衣装でねずみ男の服のようなフードの付いたローブだ。取り合えず見せてもらうことにして、オヤジの店に入ると現地人向けのジェラバや女性用の服が沢山かかっていた。オヤジは「これはどうだ?」とコットンの刺繍入りのローブを渡してきたが、壊れかけのテントでは申し訳ない品物だ。そこでオヤジに「このテントはすこし修理が必要なんだ」と言い、壊れた箇所を説明したが、オヤジは「いいよ。沢山あるから」と言って交換してくれた。こうして、テントとそう重さの変わらないであろうジェラバを交換で手にいれた。金を出してまで買おうとは思わないが、物々交換としてはとてもいい品物だ。土産物のジェラバと違い、わりとシックなデザインなのも良い。これなら日本まで着て帰ることも可能だ。

モロッコ人は観光化でスれてしまった人も多いが、どこか人情味があり、憎めない人も多い。今時、物物交換などできる国などそんなにない。このユルさがこれからも残り続けることができればモロッコの魅力はいつまでも色褪せることはないだろう。














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