2016/FEB/7 「ムルシ族」

8時過ぎにホテルの外を見るとアッレが来ていた。挨拶をして、友達は?と聞くとすぐに電話して「もうすぐやって来る」と言った。

アッレの友達のジョバンニはもう一人の男と一緒にやって来て、説明を始めた。昨日、アッレが電話で3人でバスでムルシ族の村へ行くと告げ、問題ないと言っていたはずが、開口一番「3人ではバスでは行けない」という。理由を聞くと警察のチェックポストで見つかるという。「外国人はガイドと共に車を雇って行かないといけない」と言い、ミニバスをシェアすれば安く済むと言い出した。

アッレが話が違うと言うと、とりあえずバスターミナルへいってみようと言い、5人でバスターミナルへ行ったが、バスは既に出てしまっていた。まーこの時間なら出てしまっているだろうという時間だ。多分最初からバスに乗せる気は無かったのだろう。少なくともバスに乗せる気ならもっと早く集合していたはずだ。
アッレが友達だというので、あまり強く言いづらかったが、アッレもこっちの考えが分かったようで、この男が始めからバスに乗せる気はなかったのを理解したようだ。アッレには悪いが「おーフレンド!」と言いよってくるヤツがここには五万といる。その中で本当にいいヤツは100人にひとりくらいだ。この男がそういう風には全く見えない。

アッレが強く言うと、ジョバンニは車を安く見つけるのを助けると言い、バスターミナルにいる男と話を始めた。車のオーナーだという男は1800ブルだと言い、ジョバンニはこれでも言い値より既にだいぶ下げたと言った。「1000ブルがいい」と言うとそんなの出来るわけないだろーという表情で、「ファイナルプライスは1500だ」と言った。アッレに「本当に最終か確かめるために、ここを立ち去ろう」と言い、3人でバスターミナルを出た。だが待てという声はかからない。外で「どうするか?多分これ以上は難しそうだ」と3人で話しているとジョバンニも出てきて、また話を再開した。「1500より少しでも、安くならないか?」と言うと、通りにいる他の車に話しかけ、「1400が限界だ」と言った。本当は1200位にはなるんじゃないかと期待してたが、時間もどんどん経ってしまい、そもそも今日ムルシ族の村に行くこと自体できなくなるので、1400で了承した。

話が纏まるとすぐに乗り込み、ガイド協会へ行き、ガイドを一人雇い、朝食を食べてからムルシ族の住む、西へ車を走らせた。

マゴ国立公園の入り口で入場料210ブルを払い、公園内の道路を進む。野性動物もいるらしいが、道路の近くにはいないので見れる可能性は殆どないとガイドがはなした。マゴ国立公園は景色もさほどたいしたことなく、210ブルの価値は全く見いだせなかったが、ここを通らずにムルシ族の村へは行けないので仕方ない。

途中で軍隊に止められて、そこで軍人が二人とムルシ族二人が乗り込んできた。ガイドが「軍人一人はこの車のエスコートで必ず雇う必要がある」と言ったが、他の3人については説明がなかった。シメン国立公園でもそうだったが、エチオピアは至るところでエスコートの同行を義務づけている。どう考えても安全で、さらに軍人も訓練を受けたようには見えない。明らかに、旅行者にお金を落とさせるためだ。

ムルシ族の村はこの辺りに5つあり、手前にあるハイロン村はツーリストだらけと聞いていたので、ミリゲ村に行くと聞いて安心した。

ジンカから既に三時間が経った頃に、ミリゲ村に着いた。途中、道沿いには何人ものムルシ族が見えたが、ガイド曰く、旅行者に写真を取らせてお金を稼ぐためだという。確かにみんなスゴい格好をしている。

村は藁葺きの小屋が10個程度の小さな物で、車が止まるなりすぐにムルシ族に囲まれた。ムルシ族の女性は下唇を切って、皿を入れるのが特長だが、あまりいない。子供が多く、みんな「フォト!フォト!ファイブブル!ファイブブル!」と言ってくる。ガイドが村の長を紹介し、それから村の中へ入った。

中には、写真を撮られようとかなり気合いの入った出で立ちのムルシ族が立ちはだかる。ガイドは「先ず、村の家とかを見て、写真は混乱するからそれからにしよう」と言い、それをムルシ族に伝えた。一応は理解したようだが、待ちきれなくなったムルシ族は、所々で「フォト?フォト?ブル!ブル!」と付きまとう。

家の中を見たあとに、家の庇の下に並んで座っている女性達を撮ろうと思い、ガイドに値段を聞くと一人につき5ブルだと言う。6人もいるから30ブルになってしまう。危うく全体写真でも撮ろうものなら何百ブルも請求されることになる。ムルシ族の村では気軽にシャッターは切れない。

とりあえず、端の3人だけと伝えて、写真を撮る。当然、隣の漏れてしまったムルシ族は不満タラタラだ。頭に黄色いフルーツを載せたオバさんが、「さっきアタシを撮るって言っただろ!」といきり立って現れた。写真は後でだとみんなに言ったのに何故か彼女を撮ることになってしまっている。意味不明だ。が、落ち着かないので撮るってやると、今度は「10ブル!10ブル!」と倍の額を言ってくる。さすがにガイドに伝えて、ガイドから強くいってもらう。村長も「それは違うだろ」という感じでオバさんをなだめるが、全く納得していない。ムルシ族には約束もなにも通じない。あるのは、できる限りお金を取るということだけだ。

その後もこんな感じのやり取りが続き、写真を撮らずに突っ立ってると囲まれて、「ブル!ブル!」と、終いには写真を撮れではなく、たんに金を出せという輩も出てくる。

 
ガイドには二時間くらいは村に滞在したいと伝えていたが、一時間半で既に一刻も早くここを脱出したくなっていた。しかし、前職の同僚ナベちゃんが結婚するからビデオメッセージをと大庭さんに頼まれていたのを思いだし、ようやく引き離したムルシ族の群れに再度飛び込んだ。結婚式用なので 四人ほどオシャレ女性を選んだ。ガイドに説明してビデオを撮ることを了承してもらい、二人づつ両側に立ってもらった。念のため二本ビデオを撮り、一人一人に5ブル札を渡した。ムルシ族はお金を貰うときに有り難うとか感謝はなく、もっとよこせと言って会話が終わることが殆どだ。なので常に後味は悪い。

「よし!終わったぞ」と言い、みんなで車へ向かって早歩きで戻った。既に車はムルシ族の子供たちに囲まれていたが、蹴散らして乗り込んだ。そして、まるで危険地帯を脱出するように扉を開けたまま車を走らせ、走りながら扉を閉じた。窓の外にはどんどん小さくなるムルシの村が見えた。

なんとかビデオメッセージが撮れて良かった。
以前会社を辞め、2年間程旅したときに大庭さんが結婚したので、結婚式用のビデオメッセージをマチュピチュで撮り、送ったが使われなかったという苦い経験がある。今回はビデオメッセージが結婚式で使われることを祈る。ムルシ族のためにも。













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