朝起きると、まだみんな寝ているようだったので静かにゲルをでて散歩をした。モンゴルの景色は朝と夕方はとてもドラマチックだ。草原にはわりと多くの花や色のついた草があり、朝日や夕日を浴びた草花は陰影を増し、風に揺られてどこか寂しげな景色をつくる。それはとても美しかった。
戻るとバイサが朝食の準備をしていて、リサも起きていた。バイサは昼飯用のサンドイッチも作って、それからみんなで朝食をとった。バイサの作る飯は蒙洋折衷のようなものが多かったが、必ず肉が入っていた。モンゴルで肉と言えば羊のことで、「肉の入ってない料理は草だ」とモンゴル人が言っていた。
その日はかなりの移動距離で道も未舗装になった。昼過ぎに荒野の真ん中で止まった。そこは永遠と続く大地が崖のように切り落ちていて、グランドキャニオンのような岩肌で赤土を含んだ谷下の地面は幾つもの隆起があり、さらに先の大地へと続いていた。
ゴビは砂漠だけでなく、色々な所があるようだ。
さらに、いっこうに変わらない景色を見ながら何時間も進み、夕方に差し掛かるころに鷲の谷と呼ばれる渓谷の入り口に着いた。バイサは渓谷を歩くのは明日にして、今日は博物館だけ見て、キャンプ地へ行こうと提案してみんな賛成した。
その日は丘が続く草原でテントを張って寝た。周りにはゲルもなく、風の音以外は何も聞こえない静かなところだった。夜、月が沈むと夜空の星は数を増して輝きだした。天ノ川や人工衛星も見える。バイサは日本にいたときに天ノ川の話を聞いたが、モンゴルでは毎日見えるので腑に落ちなかったらしい。寒くなってきたのでモンゴルの着物を借りた。中央アジアのローブに良く似た着物はとても暖かく、星を見るには最適に思えた。