朝起きてテントを出ると、サンダルの上にフランス人からの置き手紙があった。フランスにくるならいつでもウェルカムだと、emailアドレスと一緒に書いてあった。彼らは陸路でアフリカ一周すると聞いてとても驚いていた。「モロッコまで行けるといいね」と、皆応援してくれた。実に気持ちのいいフランス人達だった。
朝食を食べ、テントを畳んで宿を出ると、今日も日差しが容赦なかった。オシャカティのアンゴラ人の宿に戻ろうかと思ったが、一気に国境まで行くことにした。二回ほどシェアタクシーを乗り継がないとならないが、四時間もあれば着くだろう。
たいして待つこともなくオシャカティ行きのシェアタクシーを捕まえ、オシャカティで別のシェアタクシーにのり、オンダングワでまた別のタクシーを捕まえ国境のオシカンゴへ向かった。最後のタクシーにはジンバブエ人のおばさんが二人乗っていて、ジンバブエの話で大いに盛り上がった。「またジンバブエに戻ってこい」と言うので、「ムガベ大統領が死んでから、また行くよ」と言うと大笑いしていた。降りる前にギフトだと言って、20NADを渡してきて、断っても「なんで受け取らないんだ」と引かなかった。ジンバブエ人はやはり、どこか吹っ切れた人のよさがある。
出国前にスーパーで食料を買い込んだ。アンゴラの物価が、分からないし、どれくらい発展してるか読めないので水も多めに買っておいた。まー物価は闇両替次第で高くも安くもなる。国境での両替が勝負だ。
ナミビアのイミグレに向かっていると、早速若い男達が寄ってきた。レートを聞くと100NADが2000クワンザだという。オシャカティの宿で3600と聞いていたので、「そんなわけないだろ!」と言うと「2500」とレートをあげた。「3600って聞いたぞ」と言うと「そんなの不可能だ。3000だ」と言った。
取り合えずイミグレで出国スタンプをもらい、アンゴライミグレへ向かう。男達はアンゴライミグレの中までついてきて、入国審査の横で待機。アンゴライミグレは、今まで見たなかで一番権威が喪失していて、建物はしっかりしているが、関係のないアンゴラ人が、ぶらぶらしたり、入国審査官の机の横を行ったり来たりしている。どうやら、ナミビア人とアンゴラ人は、簡単に行き来できるようで、国境の町に行くだけなら入国審査すら受けてない。大量の荷物を頭に載せたまま、足も止めずに入国審査の机を通りすぎていくおばさん。工事現場の一輪車に野菜を載せたおじさんが、立ち止まることなく審査官の横を通りすぎて、ナミビア側へ歩いていく。列にもならばず、皆、まるで駅の自動改札から出ていくようにランダムに通りすぎいく。アンゴラ人の闇両替屋の若者達がセキュリティと揉めたり、何をしてるか分からない若いアンゴラ人が、ナミビア側へ行ったと思ったら、また戻ってきたりと自由すぎる。せめて国境を越えない人をイミグレの建物に入れないとか、ビザが不要でもイミグレの列に並ばせるとか秩序があって然るべき場所だ。
だが、そんな適当そうな入国審査官も日本のパスポートを見ると、顔色を変えた。「VISAはどこだ?」といい、「インビテーションは?アンゴラのコンタクトは?」とツーリストVISAがあると言っても質問攻めだった。入国カードを書こうとすると、脇から3人くらい訳の分からない男がきて、10ドルで代わりに書いてやるとカードを取り上げようとする。こんなに関係のない奴等が入国審査の机に寄ってきても審査官は何も言わないのもすごい。
入国カードは、英語併記なので、全く苦労せず埋められた。そのあと別室に通されて、責任者らしき人と面接した。この男は英語が出来ないので、英語ができる若者を呼び、何とか質問を終えた。パスポートを新しくしたので、ビザが古いパスポートにあることを問題視して、無効だと言ってきたが、説明するとオッケーが出た。入国審査の机に戻り、部下の女性がスタンプを押してくれたが、ビザがあるのは古いパスポートなので、古いパスポートに入国スタンプも押すと言って、新しいパスポートは使わなかった。機械で情報を読んだのも古いパスポートだ。彼らが控えたのは古いパスポート番号だけ。こっちのパスポートは無効化されているのだが。
女性スタッフに闇レートを聞くと3550だと言う。そこで警備が数人の両替屋を連れてきてくれたが、皆、3350以上は出来ないと答えた。仕方なく、イミグレの建物を出ると、今度は更に大量の闇両替の男達に囲まれた。スゴい勢いだ。荷物を持とうとするので、取り上げて、レートを聞くが、3200にしかからない。せめて3500がいいと言うと皆首を振る。「じゃーいいよ」と言って立ち去ろうとすると一人の男が3500でいいと答えた。周りの男達は、そいつに向かってなにか言っているが、「おし!じゃー建物のなかでやろう」と言うと「建物の中は警察に捕まる」と言い、バス乗り場で替えることにした。十人以上の男達がバス乗り場まで付いてきて、ゲートの所でみな止められた。何故か一人の男が入れて、そいつにさっき3500と言った男を中に連れてきてもらった。「こっちは1530NADだから、53,550クワンザだ」と言うとポケットから大量の札束をだした。だが、数えてみると40,500しかなく、他のやつから借りてこいと言ってもなかなか集まらなかった。今日はこのままルバンゴまで行きたいが、バス会社はもう出発するという。大声で「あと13,050だ。皆の持ち金を出してみろ」と言うと、他のやつがポケットから札束を出してきて、何とか金額に達した。「じゃーこれで完了だ」と言って、ナミビアドルを渡した。すぐにバス会社の窓口にチケットを売ってくれと頼むと、売り切れだと言って、明日のバスに乗れと言われた。この面倒な闇両替達のせいで、バスを逃した。
すると今度は、金を受け取った男がカネがたりないと言い出した。男はさっき渡した現金をよこしてみせた。数えると1330しかない。「お前らが抜いたんだろ!知るか!」と言うと、男は必死に「あと200足りないぞ!」と言い、「さっきのクワンザを返せ!」と叫んで、ナミビアドルを床に叩きつけた。男に「ここに来る前に何度も金額は確認してるから、1530で間違いない。渡してから無くしたのはそっちの責任だ」と言うが、他の男達もやって来て、クワンザの札束を入れたカバンを取り上げようとした。勢いで札束が地面に散る。さすがにキレて「なにやってんだ!」と怒鳴ると、バス会社のスタッフがやってきて、男たちに敷地から出ていくように命令した。男達はナミビアドルも持たずに追い出されたが、納得せずにまた中に入ってきた。「お前達が勝手に金を抜いたんだろ!そんなもん知るか!」と言って、ナミビアドルを手に握らせたが、今度はバス会社が呼んだ警察が入ってきた。闇両替たちは逃げるように去っていき、警察はこっちにやって来て質問をしてきた。ボルトガル語なので、ハッキリとは分からないが「彼らと両替したのか?」と聞かれたので「してない。ルバンゴへ行きたいがバスを逃してしまった」と言うと、通りでバイタクを捕まえて、他のバス会社まで行くように運ちゃんにはなしてくれた。闇両替はどう考えてもバレているのだが。