2016/AUG/13 「夜、大きくなる木」

アンタナナリボからのタクシーブルースは一時間遅れで出発し、五時間遅れでモロンダバに着いた。乗り心地は聞いていたより、悪くなかった。なにより道が舗装されていたので、ギュウギュウの車内での長時間が辛いだけで、アフリカの中で言えば、中の下だ。

モロンダバにつく前の町で、やたらと長い待ち時間があったので、朝食をとった。モロンダバは町の中心からすこし離れたタクシーブルースのオフィスに着いた。今夜はバオバブ街道でテント泊しようと思っているので、ここには泊まらない。バオバブ街道へはツアーで行く人が殆どだが、バオバブの木の下でこっそりテントを張って1泊する予定なので、自力で行くことになる。バオバブ街道はクロワスマンベルという町から六キロ程のところにあるので、まずはミニバスでクロワスマンベルへ行き、そこから六キロ歩くか、ヒッチハイクになるだろう。

タクシーブルースオフィスでクロワスマンベルへのバス乗り場を聞いていると、何処かで見たような黒人が話しかけてきた。たしか、こいつは日本人ツーリスト御用達ガイドのソニーだ!まだ到着間もないのにどうやって分かったんだ?この短時間で日本人の到着を察知したなら、とんでもないネットワークの持ち主ということになる。

ソニーはニコニコしながら、「バオバブですか?」と聞いてきた。こいつのツアーの事は知っていたので、「ソニーさんだよね?知ってる、知ってる。有名人だよ。でもバオバブの木の下で泊まりたいからツアーは要らないよ」と言うと、「分かった。じゃーバス乗り場まで一緒に行こう」と言って、ソニーは自転車タクシーに乗り込んだ。「いや、歩くよ。場所だけ教えてよ」と言うと、「じゃー自転車タクシーでゆっくり並走する」と言って、走り始めた。チョッと面倒だなと思ったが、案の定、一台の車のところで止まり「バオバブ街道まで安く連れていく」と言い出した。「あ、こういうの要らないから。バス乗り場は?」と、かなり冷たく言うと、諦めたのか、そこから歩いてバス乗り場へ連れて行ってくれた。

こんなに早くいっても暑い中、夕日を待たないといけないので、モロンダバで時間を潰すことにした。目の前の屋台で、バックパックを預けて、まずビーチへ。

ビーチではたくさんの人が遊んでいる。漁に使う船がいくつも置いてあり、海から網を引く男もいる。なかなかローカルな感じだ。肝心の海はというと、あまりきれいではない。
なので、ビーチ沿いのレストランで、ビールを飲みながら日光浴。気持ちいい。そこまで気温は高くないが、日差しが強い。一緒に来たポッチャリ系中国人サマーもビールを飲んで、ビーチで自取りに邁進している。他に見るものもなく、ビーチチェアーでダラダラ。平和だ。

午後1時くらいにバス乗り場へ戻ると、ちょうどいい具合にほぼ満席のバスがつかまった。ものの10分で出発し、あっという間にクロワスマンベルに着いてしまった。しかも、ここはモロンダバへ来るときに止まって、朝食を食べた町だ。露天の人達もさすがに覚えているので、すこし恥ずかしい。

太陽はまだ、これでもかと照らしている。こんな中、六キロも歩くのは自殺行為だ。何よりサマーは体型が長距離歩行に向いてるとは思えない。取り合えず昼飯をたべ、夕飯の食料を買い込んで、レストランの中で休んだ。すると自転車タクシーの運ちゃんが、「バオバブ街道か?」的な事を聞いてきた。ちなみに、これまでまるで現地人と会話してるように書いているが、英語は殆ど通じず、教えてもらったマラガシー(マダガスカル語)で拙いやり取りの毎日だ。だが自転車タクシーで行けることがわかった。なんで皆、高い金払ってツアーに参加するのだろう。値段も二人で5000アリアリ。先ほどのバスと合わせても片道二ドルくらいだ。

ポッチャリ系のサマーと一緒に乗るとかなり狭かったが、ゆっくりと進むので、景色が眺められて良かった。30分くらいすると、向こうの方に見たことのある密集したバオバブが見え始めた。サマーと二人で「おー!あれだー」と興奮したが、目の前に着くと、200人は越えようかというツーリストが街道を埋め尽くしていた。村人以外誰もいない静かなバオバブ街道を想像していたので、この混雑具合はかなりショックだ。8割がマダガスカル人っぽい。週末に来たのがまずかったか?そもそもマダガスカル人がバオバブに興味があるとは思わなかった。

ショックが大きく、ツーリストがいる街道にはあまり近寄らず、離れた所からバオバブ街道を回って見た。日が沈み始めても、人は夕日を見に来てるのでいっこうに引かない。街道の東側から、夕日を眺められたのでそっちに座って夕日を眺めた。サマーは巻いていたマサイ族の布を地面に敷いてくれたので遠慮なく座った。

夕日が消えると、皆一斉に車で帰っていく。辺りもだんだん暗くなってゆく。売店が閉まっていたが、無理やり開けてもらってビールを調達してから、テントを張る場所を模索した。バオバブ街道の目の前の売店の横にテーブルがあり便利そうなので、ツーリストインフォメーションが帰るのを確認してから、そこに張ることにした。一応店の人に張っていいか聞くと、「全然問題ない」と答え、親切に「食べ物はあるのか?夕飯やろうか?」と心配してくれた。

テントを張り終え、夕飯を食べると、なんだか一気に静かになった。周りの村から子供の声が聞こえ、遠くに焚き火の灯りが、ポツポツと見える。昼間とは全く違った雰囲気だ。

月が明るく、星はそれほどでもなかったが、月明かりのなか、ビール片手にバオバブ街道を歩いて回った。なんとも贅沢な散歩だ。空を見上げれば、星空にシルエットだけになったバオバブの木が、かぶさっている。昼間はそれほど大きく感じなかったバオバブの木が、妙に大きく感じた。まるで夜、大きくなる木のように。























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