昨夜はピントの家にお世話になったが、ピントの家は、子供二人含め、家族で一つのベッドに寝ているので、親戚の男の子の部屋のベッドに親戚の男の子と一緒に寝た。なんならテントを張ろうかと思ったが、皆、ドンドン準備をすすめてくれるので、そのままベットの端で寝ることにした。
朝6時半くらいに周りの人が動いている音で起きた。お湯を作ってもらい、皆の分のコーヒーを作り、ナミビアで買った食パンにジャムを塗って分けた。持ってたリンゴも皆に配った。朝食を食べていると、たらいを持った子供がきて、家の食器を全て洗い始めた。どうやら各家を回って食器洗いをする仕事のようだ。まだ小学生にしかみえないのに黙々と働いている。途上国では子供も皆、仕事を与えられている。
水をもらい、顔を洗って歯を磨いて出発の準備をした。ピントはタライの水に石鹸を混ぜて、それに浸した布で履いているズボンをガシガシとふきだした。変わった洗濯方法だ。続いて、離れたところで洗濯していたおばさんのブラシを借りて、髪をゴシゴシとブラッシングし始めた。髪が終わると髭も同じようにゴシゴシした。ブラシは綺麗には見えないが、そこは重要ではないのだろう。とにかくこれでピントの準備は完了した。
家を出て、異臭のどぶ川を渡ると、沢山の人が水汲みにやって来ている大きなタンクがあった。「ボン ディア」と挨拶すると皆フレンドリーに返事をくれた。道に出るとバイタクを捕まえて、カテドラル広場に向かった。ベンゲラに行く前に最後の望みにかけることにした。
広場に着くと、ピントのいつもの場所に荷物を置いて待つ。周りに人が寄ってきては他愛もない話をし続けること二時間。ピントのカメラマン仲間が、こっちに合図を送ってきた。走ってその方向へ行くと、公園を横切る不思議な髪型の女性が見えた。間違いない。ムムイラ族だ。
首に何十ものビーズのネックレスをかけているが、それらは粘土のような物で固められて首ギブスのようだ。髪の毛はナミビアのヒンバ族の様に何かで固められているが、色が黄色く、先にはビーズが取り付けられている。なんとも堂々とした風貌でこちらが萎縮してしまいそうだ。
早速ピントが写真を撮らせてもらう交渉をしたが「1000クワンザだ」とかなり高額な要求をしてくる。昨日、ピントが一人100クワンザ(22円)で撮れると言っていたが、その10倍だ。交渉を続けると500に下がり、更に200に下がった。ここでオッケーを出して、写真を撮るがあまり協力的ではない。撮らないならもう行くわよといった感じで歩き去りそうだ。一緒にいた旦那らしき男は少し先に行ってしまった。手には乾燥した草と木彫りのシャモジのような物を持っていて、市場に売りに行くところなのかもしれない。そもそもここにはツーリストは来ないので、わざわざ写真を撮らせるために山から降りてくるのはあり得ない。昨日、色々な人にムムイラの場所を聞いたときに、皆あの辺を通るよと言い、居るという表現はしなかったのは、何処かへ向かう途中に、この辺りをよく通過するということだったのだ。
ムムイラ族のおばさんは、三枚くらい撮ると、歩き出してしまい、「まだ撮りたいから正面を向いてくれ」と頼んで撮り終えると、「二回撮らせたので400クワンザだ」と言い出した。「いや、あなたが動くから撮り直したんだろ」と言っても納得せずに怒ってしまった。ピントが説明しても納得せずにお金を受け取らずに帰ろうとするので、ピントが更に200払って落ち着いた。
ムムイラ族はかなり話の通じない人達で、ここのアンゴラ人とも特に仲良くしていない。ピントも後で何をされるか分からないので、お金を渡したという感じだった。勿論この200はあとでピントに支払った。
ピントは向こうの公園にはきっとムムイラ族の子供もいて、もっと簡単に写真が撮れるというので、行ってみることにした。しかし、行ってみると、そこにはムムイラは誰一人おらず、ピントの写真仲間に聞くと、またミレニアムモールだということになった。昨日と同じ流れだ。
さすがにもうベンゲラに出発した方が良さそうだったが、ピントの写真仲間が二人加わり、どんどん進むので、モールまで行くことにした。そして、モールにいた男から、山の方の魚市場にいると言われて、更に進むことになった。もういいかなーと思ったが、新しく加わった二人は異様にテンションが高く、止められなかった。
二キロくらい歩き魚市場に着いたが、ムムイラは見当たらない。更に聞き込みをして、奥の方へ突き進む。市場の奥の掘っ立て小屋の並ぶ路地を進んでいると、写真を撮った瞬間に、二人組の男が絡んできた。凄い剣幕だし、メチャクチャ酒臭い。つかみ合いになり、揉めたが、英語で謝ると何とか収まった。何だったかは不明だ。ピント曰く、写真を撮ってはいけないと言うわけではないらしいが、撮れば間違いなく揉めるだろう。
更に進み奥の集落の続く道に出ると、前からムムイラ族の母親と娘が歩いて来るのが見えた。おー!いい感じの親子だと眺めていると、ピントが早速交渉にいった。まずは1000から始まり、一人150クワンザでオッケーが出た。ピントがあっちで撮ろうと言い、移動していると更に他のムムイラがやって来て、四人になった。もう十分なので四人で写真を撮りたかったが、他の二人は150では納得してなく、一人500と言い出した。交渉していると周りには人だかりが出来てしまい、更に二人ほどムムイラのおばさんが加わった。あんなに探してもいなかったムムイラ族に囲まれるとは思いもしなかった。
ピントに「始めの親子だけ写真を撮ろう」と頼むが、ピントの仲間が「もう収集が着かないので、ここを離れた方がいい」と言い、しぶしぶその場を離れることにした。こんなにもいい絵が目の前にあるのに勿体ないと思ったが、もと来た方へ下り始めた。すると道で二人組の男が絡んできて、ピントの襟をつかみ脅し始めた。さっきの男たちといい、何が問題なのか分からなかったが、ピントが二人組にお金を渡すのが見えた。だが、男たちはもっと出せといい、ピントが拒否するとバッグをつかんだので、振りほどくと、持っていた鉄製の短い棒で叩いてきた。バックに当たったので、「何やってんだ!」と叫ぶと向こうも何やらポルトガル語で叫んだ。ピントも殴るしぐさをして大乱闘かと覚悟したが、ピントの仲間が「立ち止まらずに走れ!」と叫び、二人組の腕を振り払って早歩きで立ち去ると追っては来なかった。ピントの仲間が「あれはバンデット(強盗)だ。町の外はよそ者には危険だ」と言った。行き時に揉めた二人組も、よそ者から金を巻き上げる強盗だったようだ。この辺りは山の麓で、ルバンゴの町の人間たちでさえ強盗にあうようだ。アンゴラは安全だと思っていたが、こういうエリアではよそ者がぶらぶらするのは危ない。
町に戻るとピントの仲間が、写真のデータを欲しいと言うのでカメラ屋に行ってパソコンでデータを移すことにした。カメラ屋の中国人オーナーはピントと仲間達を指して「コイツらバンデット(強盗)だぞ。気をつけろ」と忠告した。アンゴラにはバンデットが溢れているようだ。