ワルザザードの次はティネリールへやって来た。この町はトドラ渓谷の入り口にあり、渓谷へ行くにはここからミニバスかグランタクシー(シェアタクシー)に乗り換える。以前メルズーガでゲストハウスをしていたノリ子さんは、色々な事情で今はトドラ渓谷に宿を構えていると聞いたので、アフリカ一周の最後に訪れてみたいと考えていた。メルズーガのノリ子さんの宿と言えば、アフリカに来るバックパッカーで知らない人はいないほど有名だった。
ティネリールの町に降りると、フルーツの屋台や串焼きの屋台がたくさん並び、カフェでは地元の人がお茶を飲んでいて、かなり普通な所が良かった。マラケシュやメルズーガのように小綺麗なツーリストレストランやお土産屋ばかりの町は何処か疲れてしまう。こんな普通の町が旅人にはやさしい。プロシェットが1本3DHと物価も安い。モロッコはオレンジのシーズン真っ最中でオレンジジュースの屋台が何処に行ってもある。目の前で絞ってくれるオレンジジュースは濃密で酸味があり美味しい。マラケシュのフナ広場で売っているのは少し薄めてあるので注意が必要だ。
ジュースを買った店の子供がグランタクシー乗り場へ案内してくれた。タクシーはすぐに出発して、渓谷へむかった。町から坂を登ると渓谷の入口に広がる緑とその向こうの廃墟のような建物群が目にはいった。スゴい景色だ。そこから少し進むともう少し谷の幅が狭まり、渓谷の様相を呈してきた。
ノリ子さんの宿は、観光名所にもなっている両側に岩肌がそそりたつ、岩山の細いすき間のすぐ手前にあった。宿には日本人が5人ほど泊まっていて、翌日にはさらに6人が加わった。こんなにたくさんの日本人を見るのはいつ以来だろう。
ノリ子ハウスからは4~5時間で歩けるトレッキングルートがあり、岩山の中を歩きノマドのテントにも寄ることができる。ここに泊まる日本人の殆どがこのお手軽トレッキングをする。このルートはロンプラなどには載ってないので、外国人はまずこない。きっとこのルートに住むノマドは日本人ばかり訪ねてくるので、トドラ渓谷には日本人ばかりやって来ると思っているに違いない。
トゥブカル山からの筋肉痛で太ももが悲鳴をあげていたが、大したトレッキングではないので行ってみることにした。岩肌がそそりたった渓谷を抜け、道路から山道へ入った。そこからはずっと登りで、一時間半ほどで小さなピークにでた。ピークから逆側へ下ると下の方に黒い遊牧民のテントが見えた。
テントの近くには女の子が二人いた。大人はいないのか?と見渡していると、奥で寝ていたおじいさんが出てきた。もはや、日本人がやって来ることに慣れているようで、「お茶はいるか?」と聞いてきて、お湯を沸かし始めた。サンドイッチの材料を持ってきていたので、テントの下で作って食べることにした。
女の子達がテントにやって来て、食料を見せると「くれ!くれ!」と騒ぎだした。サンドイッチを作るから分けてあげると言っても、チーズを掴んで放さない。サバの缶詰を開けようとすると女の子がそれを制止して、缶詰をおじいさんに渡せと言う。多分サバの缶詰は彼らからすれば高価な物で、サンドイッチに使わず置いていけということなのだと思う。だが、サバ抜きではサンドイッチは貧相になるし、何よりあげるために持ってきたのではない。
無視して、サンドイッチを作り、4等分して、おじいさん、女の子達に渡した。おじいさんはみんなのお茶をいれてくれ、テントの下でみんなで食べた。最初は「金!金!」と言ってた女の子達も満足したようで、もう金とは言わなくなった。飯のあとは疲れていたので、みんなで横になって少し寝た。女の子達はおじいさんの両側でずっとくっついたままだ。なんだかここは随分平和なところだ。
宿に戻ると、皆、戻っていて旅の話をしたりして過ごした。ノリ子ハウスの夕飯はノリ子さんが作る日本食で、みんなでリビングで食べることになっている。何処か合宿のようでもあるし、殆んど日本人に会うことのなった西アフリカの後で、こんなにたくさんの日本人と一緒に夕飯を食べるのはとても不思議な感じだ。皆、それぞれ違った旅をしていて、ここでたまたま会ったに過ぎないが、何処か共感するものがある。短期旅行の人もいれば、もう7年くらい旅をしている人もいる。これから西アフリカへ下る人もいれば、南米に飛ぶ人もいる。こういう旅の交差点のような場所はいいなーと嬉しくなる。
ノリ子ハウスはアフリカの長旅を終えた旅人にはオアシスのような場所だ。これからも多くの日本人の旅人がここへやって来ることだろう。ノリ子さんが元気にこの宿を続けられることを祈る。
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