この先はシンゲッティからヌアディブまでの移動だ。行き方はまず一度アタールに戻り、そこからシュムという町までシェアジープで北上し、シュムからムアディブまでは列車を使う。この列車がハードコアな旅人の間で有名なアイロントレインと呼ばれてるズエラットの山から取れる鉄鉱石をヌアディブの港まで運ぶもので、荷台にはタダで乗ることができる。ただし、この列車は鉄鉱石を運ぶ為のもので、鉄鉱石用のトロッコのような上部の開いたコンテナに乗ることになり、砂漠の夜の冷え込みの中、荷台で一晩明かすので、なかなか心構えが必要だ。
更に、この列車はヌアディブからズエラットまでは何も運んでないので空のトロッコの中で寝るのだが、ズエラットからヌアディブは鉄鉱石を運ぶので満載の鉄鉱石の上で一晩過ごさなければならない。ヌアディブ行きだと風邪をもろに受けるのと、鉄鉱石の粉で全身真っ黒になるらしい。そのためこのルートには防寒以外に防塵対策が必要になる。
シェクの手配してくれたシェアタクシーで朝一にアタールへ行き、そこでまたシェアタクシーに乗って、シュムに着いたのがちょうど昼ぐらいだった。シェアタクシーはピックアップトラックの荷台で中の半額だったが、砂と日差しが厳しかった。
シュムは何もない町で、中心に線路が通っているだけで、とてつもなく暑かった。町の人に列車の時間を聞くと夕方7時くらいだと言う。飯を食う以外にやることもないが、ここで7時間も待たなければならない。
ちょうど目の前に食堂があり、そこで飯を食った。残りの現金は500MRO(154円)しかないが、列車はタダなのでヌアディブまでは大丈夫だろう。
殆どの人が建物の中や日陰で寝ている。食堂の家族も飯を食べ終えると床で寝始めた。外を歩いてる人は皆無、ここには生産的活動が全くうかがえない。朝と夕方しか活動できないこの砂漠タイムは本当に非生産的だ。この食堂も他に客は誰もいないし、そもそも子供たちだけで店をまわしている。子供食堂なのか?一体どうやってみんな暮らしていけてるのか不思議だ。
7時近くになると遠くから列車の音がし始めた。何しろ全長2.3kmの世界一長い列車なので停車までにかなりの時間がかかるのだろう。
荷物を纏めて、駅に向かうとちょうど列車が目の前に入ってきた。だが、列車は止まる気配がない。そして、世界一長い列車はそのまま目の前を長い時間かけて通り過ぎていった。あっけに取られていると、食堂の人があれではない、次のだと教えてくれた。
日が落ちて涼しくなると食堂の家族が外にゴザを出してきて皆で寝転がった。砂漠ツアーの食料の残りのパンとサーディン缶で夕飯にした。
次に列車がやって来たのは10時だった。音がし始めると、近くのおじさんがついてこいと言い、列車の最後部へ案内してくれた。最後部には客車が2両だけ付いていて、現地人が暗闇のなか乗り込んでいる。見上げると、その手前のトロッコの上に人影が見える。おじさんは「早く登れ、列車が出るぞ!」と言った。お礼を言いタラップを登ると中は砕石の砂利で一杯だった。表面が少しキラキラしている。これが鉄鉱石か。思ったより砂ではないなと思ったが、シンゲッティで手に入れたカッパを着て、ザックカバーをしたバックパックを風上において、ビニールシートを敷いて寝転んだ。石が背中に当たって痛いが、なんとかしのげそうだ。
他に現地人が6人ほど乗っていた。皆毛布を持ち込んでくるまっている。列車が出発すると風が当たって涼しかった。
軽く寝入って、寒さで気がつくと空は満点の星空だった。気温もさることながら満載の鉄鉱石のせいで身を隠せないので風が寒い。砕石だと思っていたが気がつくと鉄鉱石の粉が満遍なくカッパを覆っている。テントを出して毛布かわりに体に巻きつけることにした。
ヌアディブには翌朝10時過ぎに到着。列車の上で迎える朝は極寒だったが、美しかった。現地人は鉄鉱石の上でも器用にお茶を淹れていた。
降りたところからシェアタクシーでMapsmeで目についた宿に向かった。テント泊2000MRO(616円)だったが、セキュリティーがいないので部屋泊しかダメだと強引に部屋に宿泊させようとするオーナーと揉めていると、見たことある男が部屋から出てきた。ギニアビサウの島で会ったウクライナ人のアレックスだ。相棒のロシア人、デミトリーと駆け足で北上していたが、ウクライナ人はモロッコのビザが必要で、彼一人だけここで足止めされているらしい。既に1週間もいるという。どう見ても魅力のないこの町で1週間もよく耐えている。デミトリーは先にモロッコに入国してアガディールで女を買っているらしい。相変わらずだ。
アレックスは「一体何があったんだ?」と顔をジロジロ見るので、トイレで鏡を見ると顔が鉄鉱石の砂で真っ黒だった。ここまでの道中で会った人達は何も言わなかったが、きっと不思議がっていたことだろう。駅からのシェアタクシーの代金を運ちゃんに渡した時に、何故か「大丈夫だ」と返されたのも、あまりに汚すぎて不憫に思ったからかもしれない。よく見ると服もバックも凄まじく汚れている。アイロントレインは乗ってる時だけでなく、降りたあともハードコアだ。
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