砂漠ツアーは朝の8時発だった。15分前にガイド兼ラクダ使いのムーハマートがやって来た。英語はゼロで片言のフランス語を話す。こっちはそれ以下のフランス語なので文句は言えない。砂漠の中に住むノマドの男で、いつもシェクが頼むらしいので信頼出来そうだが無愛想だ。
必要なものだけバックパックに詰め込んで、ムーハマートの外に繋いであるラクダに積んでもらった。水は10リットルのポリタンクと750mmlのペットボトル2本を持った。中身はどちらも水道水だ。これだけの量の水を買う金はもはや無い。
町を出る前に商店でフランスパンを買った。その他の食料はツナ缶×1、サーディン缶×2、トマト5個、ゆで玉子×4、リンゴ×2、ミカン×1とお菓子少々。しめて1300MRO（400円）。ゆで玉子は昨夜シェクが茹でておいてくれたものだ。
基本的にはラクダは荷物用で、ムーハマートがロープで引き、そのあとを徒歩で歩く。つまり徒歩の砂漠ツアーだ。今考えると、もしウワダンまでの5日間ツアーだったら砂漠の中を120kmも歩かなければならなかったわけだ。果たして砂漠マニア以外楽しいと感じるのだろうか。何となく2日間で良かったのかなーと始まったばかりで思えてきた。
町を出て15分もするとすっかり砂丘の中で、まばらに草もあるが、砂に足を取られて歩きづらい。幸いまだ日が高くないので涼しくて気持ち良い。ラクダはしょっちゅう草を食べる。しっかり食ってから来いよと思うが、草食動物は１日中食べ続けなければエネルギーがまかなえないと最近読んだ本に書いてあった。
言葉が分からないのでムーハマートとは殆ど会話もない。景色もまーキレイだがいわゆる砂漠だ。シュールな旅になりそうだ。
3時間ほど砂丘を進むとさすがに日が高くなり暑くなってきた。日陰は一切見当たらない。ムーハマートは向こうの方を指差して、あそこで休もうと言った。
30分ほど歩くと木が生えている場所があり、暑いので一番近くの木の陰で休むことにした。少し休むのかと思ったが、ムーハマートはラクダから荷物をおろし、絨毯を敷いて寝はじめてしまった。
それから二時間ほどして、ムーハマートは起きて火をおこし始めた。どうやらティータイムらしい。小さなポットとグラスを出して、手際よく準備をする。セネガルで見たのと全く同じ作法で何度もグラスに注いではポットに戻すことを繰り返して、グラスに半分ほどのお茶を此方によこした。これだけやって、小さなグラスに半分だけだ。しかもこのお茶には水と同じくらいの量の砂糖が入っている。一回のお茶の葉で3回いれる。最初の一杯はかなり渋く、次第に薄くなる。砂糖は毎回入れるので変わらない。これだけ砂糖を入れると渋くなければ、ただ甘いだけの飲み物だ。
このティーセレモニーを2セットほど繰り返しすと既に4時半になっていた。5時間も木の下にいたことになる。ムーハマートは荷物をラクダに積み込み、5時を過ぎたくらいに再出発した。
まだ暑かったが、一時間ほどすると日差しも弱まり、涼しくなった。砂漠の真ん中に突如井戸があり、一人の男が頭を洗っていた。ラクダはここぞとばかりに水を飲みだした。ムーハマートも頭を洗い出したので、同じように洗ったが、水はラクダ臭かった。
そこから30分でテントと藁でできた家が数軒見えた。子供がいるのが見える。どうやらここが宿泊地のようだ。白いテントの家は大きく良さそうだったが、ムーハマートの家は手前の藁の家だった。家には誰もおらず、独り暮らしのようだ。完全に彼一人でツアーをやっていることになる。
日が落ちると焚き火の灯り以外は真っ暗だった。暫くすると星がでたが、月が明るくそれほどの数ではなかった。ムーハマートは砂の中で焼く、ノマドブレッドを作り始めた。焚き火をおこし、いったん炭をよけて、パン生地を砂に埋めてからその上に炭をのせた。それ以外にもヤギのミルクをくれた。飲んでみると軽く発酵した感じがした。ヤギのミルクで作る酒かもしれない。モンゴルにも馬乳から作る酒があった。モーリタニアは酒の持ち込みを法律で禁止するほどの厳格なモスリムの国だが、これは酒にはカウントされないのだろう。それくらいなければやってられない。
ムーハマートは外で寝るか中で寝るか？と聞いてきたので外で寝ることにした。家の中から絨毯を引っ張り出し、砂の上に敷いて一人星を見ながら寝袋でウトウト眠りについた。砂漠の夜は静寂そのもので、風の音以外はムーハマートが家の中で聞いているラジオの音しか聞こえなかった。夜中に目が覚めると、月が消えていてなかなかの星空が眺められた。
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